冬の序詞

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▽ ダイニングテーブルの上には朝食が蓋をかぶっている。 その蓋をとって、食べ始めた。 冷めかかった朝食は、少し味気ない。 ずいぶん前に作られたようだ。 今日は、起きたのが少し遅かったから、それも仕方ないのだが。 いつものように静かな空間が、よりいっそうその味気なさを意識させる。 そういえば、忘れていた。 食事や炊事は、やってくれている人がいる。 水上 奈々華さんといって、オレの母親の、少し年の離れた友達だ。 ちなみに弁護士。 昔、法律の勉強をする場所で知り合ったと聞いたことがある。 オレの母は、途中で父の提案に招かれて、起業に加わったから、最終的に進んだ分野は違うのだが。 その奈々華さんに、しばらく海外に滞在するにあたって、家をお願いしたらしい。 近所ということもある。 最初のうちは、この家で過ごしてくれたりもしていた。 けれど、オレが頼んで住み込みはやめてもらったのだ。 それは、お互いのためにならない。 そして、今ではもうすっかり慣れた。 母親の方は時々、不定期に帰ってきたりもする。 今では、全てがもう日常になった。
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