『葵と茜』

5/14
前へ
/18ページ
次へ
「今日は一段と寒いね。」 ある冬の帰り道。 私の隣にいるこいつはそう言った。 「別に。」 昔から寒さに強い私はその言葉を素っ気なく返す。 「葵は昔から寒いの平気だもんね。」 「まあね。」 たわいのない会話。 いつもどうりの帰り道。 その道には私の青い髪とこいつの赤い髪。 そして私のフワフワした赤いマフラーと、こいつのちょっと薄目の青いマフラー。 どうしてこいつは寒さに弱いくせに薄いマフラーをつけてくるんだよ……。 「もうっ!仕方ないなぁ!」 私は自分のマフラーを外すと茜に巻き付けた。 「あっ葵ちゃん!?」 「うっさい。黙って巻かれてろ。」 昔から私は茜を放っておけず、世話をやく。どうして放っておけないのかは今でも謎だが、今はこいつの暖かさ確保だ。 「このマフラーフワフワしてる。」 「茜も次からはこういうマフラー巻きなさいよね。」 「うん。ありがとう。」 笑顔で御礼を言うこいつの顔に、何故が心が温かくなる。 「どういたしまして。」 「じゃあせめて葵ちゃんはこれ巻いてよ。」 一瞬フワッと私の視界は青で埋め尽くされた。 「薄いかもしれないけど、ごめんね。」 申し訳なさそうにしているが、マフラーに残っているこいつの温もりがあたたかかった。 「悪くない、大丈夫だ。」 「本当?よかった。」 再び笑顔になり、先に歩き出す。その少し後ろで私は呟く。 『ありがとう……。』 素直に言えない5文字を、小さな声で……。 .
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加