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「今日は一段と寒いね。」
ある冬の帰り道。
私の隣にいるこいつはそう言った。
「別に。」
昔から寒さに強い私はその言葉を素っ気なく返す。
「葵は昔から寒いの平気だもんね。」
「まあね。」
たわいのない会話。
いつもどうりの帰り道。
その道には私の青い髪とこいつの赤い髪。
そして私のフワフワした赤いマフラーと、こいつのちょっと薄目の青いマフラー。
どうしてこいつは寒さに弱いくせに薄いマフラーをつけてくるんだよ……。
「もうっ!仕方ないなぁ!」
私は自分のマフラーを外すと茜に巻き付けた。
「あっ葵ちゃん!?」
「うっさい。黙って巻かれてろ。」
昔から私は茜を放っておけず、世話をやく。どうして放っておけないのかは今でも謎だが、今はこいつの暖かさ確保だ。
「このマフラーフワフワしてる。」
「茜も次からはこういうマフラー巻きなさいよね。」
「うん。ありがとう。」
笑顔で御礼を言うこいつの顔に、何故が心が温かくなる。
「どういたしまして。」
「じゃあせめて葵ちゃんはこれ巻いてよ。」
一瞬フワッと私の視界は青で埋め尽くされた。
「薄いかもしれないけど、ごめんね。」
申し訳なさそうにしているが、マフラーに残っているこいつの温もりがあたたかかった。
「悪くない、大丈夫だ。」
「本当?よかった。」
再び笑顔になり、先に歩き出す。その少し後ろで私は呟く。
『ありがとう……。』
素直に言えない5文字を、小さな声で……。
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