出逢い

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「まだ考えたい事があるかもしれないけれど、お腹がすいているでしょう?」 「……えっ…と…」 「あなたが運ばれて来たの昼過ぎで、だいぶ時間が経っているから。」 そう笑う松さんの目尻には優しいシワがあって、口元はずっとふんわりと緩んでいる。 なんだか、お母さんみたいで… 「私もお腹すいちゃったわ。」 忘れていた事実がフラッシュバックして、苦しくなる。 パタリとベッドに落ちた手。 涙を一粒流して閉じてしまった瞳 「……………」 「……小春さん…?」 泣かない… 泣いちゃダメだよ… ………わかってるのに… 「……小春さん……」 ぐっと手に力を入れる。 涙が零れないように目を瞑る。 すると… 「………え…?」 固く握った私の手に、柔らかく優しい手が私を包んでいた。 顔をゆっくりあげると、さっきまでとはまた違う微笑みの松さんと出会った。 「…ま…まつさ…」 「そんなに強く握ったらいけませんよ。可愛らしい手なんだから。」 そう言いながら優しく私の手を解してくれる。 目を開いたから我慢していた涙が堪えきれずに零れて頬を伝う。 「不安よね。いきなり知らない人に連れられて、知らない場所で目が覚めて… 不安ですよね…小春さん。」 「……っ…」 「どういう事情なのかはわからないけど…安心してね。」 安っぽい一言。 そう言って安心させて嘘をつくなんて人間は普通に出来る。 だけど… だけど松さんの言葉は私に染み込んで来る。 「きっと、力になるから。 だから今は何も考えないで。 考え事をする時は、私たちも一緒よ。」 「……………」 信憑性も、確かなものは何もない けど、今はこの暖かい手を振り払う事なんかできなかった。 ,
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