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適当な長さの線を書き、筆を置いて彼を見た。
すると彼はとうに私を見てはいなくて、桂さんに向き合っていた。
「これでわかったろ?あれが筆だとわかり、普通に使ってのけた。」
「……何て子だ…」
桂さんは私を信じられないとでも言うような目で見る。
「………私、何かしてしまいましたか?」
そこまで言葉をなくされると怖くなってしまう。
優しい笑顔もないから尚更不安になる。
「君、それが筆だと何故わかった?」
「………え?何故って…言われましても。」
その問にどう答えていいかわからない。
筆を与えられて、ただ線を書いただけ。
それなのに何でこんなに引かれなきゃいけないんだろう…
「俺たちが最初これを見た時、裁縫の道具か狩りの道具かと思ったんだ。」
「………狩り………?」
「先が尖っているし手に隠しやすく握りやすい。だから最初は誰もがそう思った。」
「………筆とは、誰も思わなかったのに…君はすぐに理解し実演した。」
「これが、証拠だ。
お前は異国の物を身にまとい、異国の物を扱え、知らない土地の名を口にした。
お前が未来から来たという事が証明された。」
得意気に、嬉しそうに話す高杉さんを私は他人事のように眺めていた。
頭の中はすでにオーバーヒートを起こしていたから。
「…―――あっ!小春さん!」
考えて考えて考えた末にも人間の身体が出した結末は、“休憩”だったようで、私はそこで意識を失ってしまった――
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