1.眠れぬ蒼い夜

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 けれど、散歩くらいで癒えるような傷なら、はじめから疼いたりしないことも私は知っていた。  夜を歩く私は、私であって私ではない。  もし私を知る人とすれ違ったとしても、きっと彼らは気づかないに違いない。  雑踏の中に立つよりもずっとみつけづらいくらいに私は、私から遠い瞳をしている。  だからどれだけ歩き回っても、誰も私のことなど構わないだろう。私はそう思っていた。  今夜、彼に会うまでは。 「眠らないの?」  柳が涼しげにそよめく川べりの細い道で、不意に後ろから投げかけられた声に、私は体を震わせた。  深夜にこの道を他の誰かが歩くことはまずありえない。誰もいない、という前提で私はここにいるのだ。通り魔ですら、寂れた小道など避けるだろう。  恐る恐る振り返ると、一人の少年が自転車にまたがって立っていた。  白いシャツに、洗いざらしのジーンズ。細く長い手足に、薄い胸。高校生くらいだろうか。さらさらの黒髪の隙間からのぞく瞳は、綺麗な焦げ茶だった。 「それとも、眠れないの?」  全てを見透かすような澄んだ眼差しが、私を射抜く。 「やっぱり、あの事故のせい?」 「どうして、それを」
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