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問いかける声がかすれる。
この子は一体、何者なんだろう。冷たい汗が背中を伝う。
「まあ、あんなのを目の前で見ちゃったら誰でもそうなるよね」
「なぜ、知っているの? あなた、誰?」
おかしい。
知らないはずの少年が、私のことを何もかも知っているようで、気味が悪かった。
目の前の彼はストーカーという言葉とはほど遠いほど、清らかに見えるというのに。
少年は、怯える私を不思議そうに見つめ返した。
――ああ、どこかで見たことがある。
私は突然そう思った。
彼の瞳には見覚えがある。
でも、どこで?
「俺、見てたんだ。あの日、あなたが警察に連れて行かれるまでずっと」
「見て、た?」
「うん。野次馬っていうのかな。すごい騒ぎだったし……車、ぐちゃぐちゃだったね」
「やめて……」
私は弱々しく訴えた。
お願い、やめて。思い出させないで。
一ヶ月前からずっと、夜毎に私を苦しめる忌まわしい記憶を。何度も脳裏に蘇って私を揺さぶる、恐ろしい映像を。
思い出さないように、振り返らないように、しているのに。
それなのにどうしてこの少年は、暴こうとするの?
「……ごめんなさい。あなたを苛めるつもりなんてないよ。初めて事故現場ってやつを見たから、つい」
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