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まるで私の心が読めるみたいだ。
それとも、私が心を読んで欲しいと訴えているのだろうか。
こちらを覗き込む二つの瞳は恐いくらいに透き通っていた。汚れをよせつけない光、はねかえす鏡。
「でも、もしそうだったとしても、一人で抱えてちゃいけない。このままじゃ、あなたは消えてしまいそうだ」
私が、消える……?
どういう意味だろうか。
私が、夜を歩く「私ではない私」に変わっていってしまう、とでもいうのだろうか。
「痛みが、あなたを侵しはじめている。もう……壊れてしまいそうだよ」
「どうしたら、いいの?」
少年の言葉に、私は問いかけた。
壊れたくはない。
私は、まだ生きていたい。
「俺が、半分引き受けるよ」
「半分……?」
「そう。半分なら、お互い分けあえる」
それは不思議な提案だった。
一体どのようにしてこの胸の痛みを半分でも消そうというのか。そもそも、どうして彼が私の傷を引き受けようとするのか。
蒼い夜に邪魔されて、訊くこともできない。
それでも、彼の言葉は甘く響き、私は抗えなかった。
ひとつの痛みを、傷を、二人で分け合う。そんなことがもし本当にできるなら、彼にすべてを任せてしまいそうだ。
「右手を出して」
導かれるままに差し出した手に、彼の長い指が絡んだ。
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