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第一話[滋の悩み]
ゴミ一つない、キレイな部屋にカーテンの隙間から、朝日が入っていた。時間は、朝の7時をまわっている。この部屋の主、滋はまったく起きる気配がない『ジリリリィィ』けたたましい、めざまし時計が鳴り、滋はようやくベッドから身を起こした。ねぐせだらけの頭をかきながら、机において充電しておいた携帯を手に取る。
「メールも、着信も無しかぁ」
滋は少しだけがっかりした。期待していたわけではないが一つ年上の幼馴染み、【田辺悠理(ゆうり)】からの連絡を待っていたのだ。中南部高校に通う滋は、高校2年生。1年生のときは、慣れない学校のせいかよく話をしていたが、進級して悠理も生徒会の仕事が忙しくなり、すれ違うことが多くなってきた。会話もだんだん減ってきて、たまに会っても挨拶をかわすだけで、終わってしまっている。「家も近所だし何も変わった所なんて無いんだけどな」
滋は最近、心の中に何か知らないモヤみたいなものを感じていた。最初は気のせいだと思っていたが、悠理と話をしなくなったあたりから、そのモヤモヤが日増しに膨らんでいっているような感じがしている。
「疲れてんのかな」
イラついているわけでもなければ、ムカついているわけでもない。だが、何かが気になるそれが、今の滋の悩みだ。
滋はまだ気付いていない。悠理に対する自分の気持ちが微妙に変化してきていることに。滋の悩みは、まだ、解決しそうにない。
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