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遼は動かなかった。
叩かれたまま停止し、怒り狂うでもなく離れていくでもなく、ただ俯いていた。
表情は前髪に隠れ、見る事ができない。
静寂は重々しく、張り詰めた空間は息をするのさえ億劫になる。
切れることのない沈黙の糸の中、舞白はただ遼だけを見つめていた。
「……遼」
「ど……して」
「え?」
静寂を破った遼の擦れた声が部屋に響き舞白が聞き返した瞬間、遼が勢い良く舞白の肩を掴んだ。
そこにいつもの冷静な遼はおらず、その表情は怒りと苦悶が入り混じったような痛々しいもので。
「どうして俺のそばを離れた!あれ程離れるなと言っただろう!」
その怒声は空気を震わせた。
怒り任せの怒鳴り声。
恐怖すら感じそうになる遼の声の中に、舞白はなんとなく怒りとは違う感情が入っているような感じがした。
「急にいなくなってどうしたかと思えば、見慣れない服を着てあんな奴に馴れ馴れしく肩を抱かれて名前まで呼び捨てにされて」
荒々しく掴まれ、力を送り込まれる肩。
その力は舞白の華奢な肩を砕くのではないかと思われるほど強いものだったが、舞白はその力に抵抗しようとせずただ遼の瞳だけを静かに見つめていた。
「だからお前をあんな所に連れていきたくなかったんだ!
お前は俺の言う事なんざ聞きやしない。こんなことなら最初から連れていかなければよかった……」
あぁ―――――………
段々と力なくうなだれていく遼を見て、なんだか分かってしまった。
コイツがパーティーの前日までその存在を私に知らせなかったのは、私を行かせる事を拒んでいたから。
そばを離れるなと必要以上に私に言い聞かせていたのは、不安だったから。
どちらにせよ関係している事は、遼がここまで私に過保護になっている理由は多分―――……
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