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「……お前のそばを離れてしまったのは、迷子の子どもを見つけたから。泣いていたから放っておけなかった。
この服は、助けた子どもの妹が涙で私の服を濡らしてしまったから伊集院の奥方様が貸してくださった。
颯は、なぜか私のこの冷めた性格を見抜いたから偽らなかっただけだ。一緒にいたのは伊集院様が颯に私を送っていけと言ったから。
颯が私を呼び捨てにしたのは、お前を挑発するためだ。肩を抱いたのも同様。だから私は抵抗しなかった、他意はない」
舞白の落ち着いた声に少し冷静さを取り戻したのか、遼は肩を上下させながら深く俯いた。
まるで、舞白を視界に入れんとするかのように。
「颯だって、私に気などないさ。
そりゃ珍しい女だとは思われたかもしれないが、それだけだ。
言い付けを守らなかったのは悪かった。が、私とアイツの間には何もない。私だって何も思っちゃいない」
遼がここまで自分を過保護にする理由。まるで私を鎖で繋げるかのような、この言動の理由は、
「遼、お前は一体、何に怯えているんだ」
遼の歪んだアイ。
普通ではない、行き過ぎた思考から生まれる有り得ないほどの独占欲。自分だけのものにしたいという欲求。
遼の場合、それに加えて私が自由奔放すぎるから不安までおまけして付いてくるのだろう。
そんな、狂ったアイの形だ。
「おびえてる、俺が……?」
「私にはそう見える」
舞白の直球の言葉に遼は少し停止し、しかしすぐに力なくははっと笑った。
「有り得ない……なぜそんな事言うのかすら理解できない。俺が怯えるなんてこと、あるわけが……」
「じゃあ」
消え入りそうなほど弱々しい遼の声。それを遮って、舞白は右手で自分の肩を力強く掴んでいる遼の手に優しく触れた。
「なぜ、こんなに震えている」
小刻みに震え続ける手に触れると、遼は小さくビクッとはね上がった。
しかし、あくまでも平然を装っていた。
「別に……なんでもないですよ」
「嘘だ」
はぐらかすかのような言葉を一刀両断した舞白は、もう一方の手で俯く遼の頬を捕える。
そして、優しく撫でた。
「だってお前、今にも泣きそうな顔してる」
舞白に指摘された遼は驚きに目を開いたが、すぐに目を伏せ頬に当てられている舞白の手を包むように掴み、甘えるように頬をすり寄せた。
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