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ひんやりとして静まり返った会場の中、僕は花田の遺影ばかりを見つめていた。
遺影の中の花田は、一昨日の彼女とは別人のように見えた。
無表情の彼女は僕の知らない花田だった。
「本日はご参列していただきありがとうございます…向こうで…萌も喜んでいることと思います……」
花田のお父さんらしき人が静かに話し始める。
声の震えがマイク越しでも伝わってくる。
「……な子で……先月…誕生日を迎えたばかりでした……」
先月誕生日だったのか……
「…テニス部のみなさんには…本当にお世話になりました……」
そういえばテニス部だったな…
「……本当に……っ……」
花田のお父さんはそのまま泣き崩れてしまった。
ひんやりとした空気の中
僕は、花田のことを何一つ知らなかった。
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