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那智くんの彼女でしょ?そう言った彼女は妖しい笑みを浮かべていた。
酷い吐き気と寒気が僕を襲う。
花田の通夜、葬式、教室の机に飾られた花瓶、花田の両親の泣き顔……
いろんな場面が頭に浮かんで当惑していた。
『那智くん……?』
首をかしげ不思議そうな目で僕を見つめる。
心なしか焦点が合っていないように見える彼女の視線が怖くて、腹の底がひんやりした。
『大丈夫………?』
花田は手を伸ばし僕に近づいてくる。
「……!!…く…な…!」
恐怖のせいで身動きが取れなかった。
それどころか言葉すら発することができない。
来るな来るな来るな来るな…
『那智くん………』
頬に添えた手を背中にまわし、彼女は両手で僕を包み込んだ。
長い髪からはとてもいい匂いがする。
はっきりとした実体のない彼女は、人体よりも柔らかく空気よりも少し硬い不安定な存在だった。
ごめんね。と彼女は言った。
ごめんねごめんねごめんねごめんね………
何度も何度も彼女は謝った。
いつの間にか吐き気も寒気も収まっていた。
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