11月13日

6/6

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
那智くんの彼女でしょ?そう言った彼女は妖しい笑みを浮かべていた。 酷い吐き気と寒気が僕を襲う。 花田の通夜、葬式、教室の机に飾られた花瓶、花田の両親の泣き顔…… いろんな場面が頭に浮かんで当惑していた。 『那智くん……?』 首をかしげ不思議そうな目で僕を見つめる。 心なしか焦点が合っていないように見える彼女の視線が怖くて、腹の底がひんやりした。 『大丈夫………?』 花田は手を伸ばし僕に近づいてくる。 「……!!…く…な…!」 恐怖のせいで身動きが取れなかった。 それどころか言葉すら発することができない。 来るな来るな来るな来るな… 『那智くん………』 頬に添えた手を背中にまわし、彼女は両手で僕を包み込んだ。 長い髪からはとてもいい匂いがする。 はっきりとした実体のない彼女は、人体よりも柔らかく空気よりも少し硬い不安定な存在だった。 ごめんね。と彼女は言った。 ごめんねごめんねごめんねごめんね……… 何度も何度も彼女は謝った。 いつの間にか吐き気も寒気も収まっていた。   
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加