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テスト前一週間を切り、僕は形だけだが少しだけ机に向かう時間が増えた。
相変わらず花田は僕のルーズリーフを覗き込み間違いを指摘してくる。
大人しく聞いていれば花田の指摘は的を得ていて、解説はとても分かりやすかった。
すらすらと積分の演習をこなす。
1時間ほどして、僕はシャープペンシルを持つ手を緩めた。
かしゃん。と音を立てて机に落ちる。
花田がびっくりしてこっちを見た。
「疲れた」
『お疲れさま。積分……分かった?』
ひょこひょこと近づいてきて机の中を覗き込む。
「面積んとこは大体解ける-…はずだ」
よしよし。花田はそう言って満足げに僕の髪を撫でる。
「さわんなよ……」
口ではそう言いつつも彼女の手を払い除けるつもりは毛頭なかった。
『ゆんちゃん…』
花田が不意に口を開く。
『ゆんちゃんね、ずっと那智くんのこと好きだったんだって』
背後に立つ花田が優しく僕の髪を撫でながら話す。
『でもね……私、そんなこと知らなくて……私が那智くんのことが好きって言っても笑って応援してくれて……』
黙って彼女の言葉を拾う。
『ゆんちゃん、可愛いし、しっかりしてるし……私、勝てる気がしなくて……先手打っちゃった……』
後半の声が震えていたように思った。
慌てて振り向くと案の定、花田の目は涙で溢れていた。
「花…」
『フェアじゃないよね!……全然フェアじゃない……だから…バチが当たったのかなぁ……』
困ったように笑う。
『ねぇ、那智くん……』
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