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都心から少し外れた場所に一軒の豪邸があった。
古風な日本伝統の作りの家で、そこら一帯の地主の家だ。
その豪邸の母屋から離れた部屋に隆也はいた。
最近、近所に出来た図書館から借りてきた小説を片手に、縁側に腰をかけて座っていた。
春に入ったばかりだが、まだ寒い。その証拠に庭にある桜の枝の蕾はまだ膨らんでいない。
そんな彼の側に近づく影があった。
隆也の母親だ。
「隆也さん? 寒くないの?」
いかにもな感じの女性で、着物を着ている。
「寒いから部屋に入ってなさい」
「……」
隆也はその命令に何も言わず従う。
口答えしたところで結果は見えてるし、無駄に体力を使うのも億劫で避けたいからだ。
「病気なんだから無理をしてはいけませんよ?」
「分かってる」
簡単に返事をして、隆也は持っていた本を閉じ、机に置いた。
とくにすることもないので大人しく布団に潜り込む。こうすれば母親も満足して姿を消すからだ。
「いい子ね、隆也さんは。……それと隆也さん。今度またお世話してくれる人を探してますから」
「また?」
隆也は訝しむように母親を見る。
母親は昔から、隆也を世話をしてくれる人。つまりは従者、洋風に言えばメイドをつけているのだが、それをことごとく隆也は拒否して追い返しているのだ。
「今度は隆也さんが気に入る人を探してきますよ」
「期待はしませんよ」
どうせまた追い返すだけ、隆也はそう考えた。
そうこうしている間に、母親は部屋からでていった。
億劫だな、とおもいながら、布団の中で隆也は瞳を閉じた。
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