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「くそ……」
どうする、どうする。
有効な打開策を考えろ。極限まで追い詰められたキリサキの思考は、空転を続けるばかりだった。
一向に有用なアイディアなど思い浮かばない。
畜生。ここまでか。
キリサキが力を込めて振るったはずの短槍であったが、既に限界を迎えていた腕の筋肉は、短槍を保持することなどかなわず、手の平からすっぽ抜けてしまう。
まるで負けを悟った主を見捨てるかのように。
「くっ」
飛び掛るスライムの群。すべての動きがスローモーションに感じ、様々な場面が脳裏をよぎるが、そんなキリサキを――――否、この交差点に存在していた全てを突如として突風が襲った。
「なんだ?」
呆然とその光景をキリサキは見詰めていた。
目に見えるまで圧縮された空気の束が、スライムや骸僧を蹂躙していく。あまりにも偉大な力に、なす術などあろうハズもない。
魔力感知の心得など無いキリサキでも、目の前の空気の束が圧倒的な魔力によって編み上げられたことは理解できた。
スライムへの魔力供給など、砂漠に落ちる雨粒のように意味の無いものだった。
「ぎょえエエエeeeeeeeeeeee!!!」
絶叫を上げ、骸僧の体が四散する。それに伴って、今まで再生を繰り返していたスライム達も一挙に崩壊した。
「なんなんだよ、これ」
呆然と、キリサキは呟くしかなかった。
あまりにも圧倒的にすぎる。これが機関という組織の力なのか。
いや――――そうか、聞いたことがある。
機関に存在する救世主。人の身でありながら、神話の中に足を踏み入れた存在。
「あれが世界の“未来”か」
風が止んだ交差点に立つ一人の少女。それを視界に納めた瞬間、キリサキの意識は途絶えた。
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