ヴァチカンの吸血鬼

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 ローマ‐ヴァチカン  人が抗えぬもの、といえば多々あるが、歴史もその中の一つであった。  この大聖堂の中に積み上げられた敬虔で真摯な歴史の重みは、訪れる者全てに畏怖の念を抱かせる。  そんな大聖堂の中央に立つのは、ヴァチカン枢機卿の一人、ノルド・キャルベッチであった。彼は手にしたA4の紙資料を一文字も読みの逃すまいと、熱心に読み込んでいた。  唐突に顔を上げたノルドは、脇に控えていた神父に声をかける。 「リーモン神父。この報告は本当かね?」  いかにも聖職者然としたノルドの問いに、まるで切れ者の商社マンのような雰囲気を持ったリーモン神父は頷く。 「はい、我ら第三執行局の調査によれば、日本で強大な神話力が行使されていることは確かです。そして原因は日本の機関が所有する“未来”と呼ばれる存在であることも突きとめています」 「うむ……」  思案気にノルドは天井を見つめた。  数百年の昔に描かれた天井画が目に入る。描かれているのは大いなる父と天使たち。  神話力とはすなわち、天井画に描かれているような天使たちの力を我が物のように行使する資格だった。 「これほどの神話力、われらヴァチカンの聖戦士達でも中々持っているものはおらんな」 「それどころか、人であるならば個人でこのような力を行使した例は有史以来存在していません。もしも、このような力を本当に一人で行使しているとしたら――――」  リーモンの言葉にノルドは眉間を押さえた。  その先は考えたくも無かったからだ。
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