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「それだけ、ですか」
「それだけって?」
「だから……俺がアンタを嫌いだって話」
森の言葉に、未来は不思議そうに首をかしげる。
「理由、聞いてほしいの?」
「――――違います!」
憮然と言った森は、運転に集中することにした。そんな森の態度に対し、困ったように肩を竦めた未来は再びライターを弄ぶ。
カチ、カチ、っと規則的な音が再び車内に木霊する。
そんな時間が十分も続いただろうか。森は車を停めた。
「つきましたよ」
「うん、ご苦労様」
感謝の言葉。
薄っすらと微笑んで、未来は車のドアを開けた。
降り立った先は400m四方の、荒涼とした空間だった。
そこは、かつての工場跡。今はただの空き地となっているが、数年前まではそれなりの規模の工場が建っていた地である。
「ゾクゾクするね」
相変わらずライターを指先で掴んだまま、未来は空き地の中央へと進んでいく。森は車に寄りかかり、煙草を点けようとするが、未来が持っているのは自分のライターだと気が付き軽く舌打ちをした。
今日は名月だった。
海が近いためか、吹き付ける風は冷たく、そして薄っすらと潮の匂いを孕んでいる気がした。
嫌いじゃないなぁ、こういう匂いは。
未来はうんうんと頷きながら、広場の中央へと歩みを進める。
「世の中は、驚きに満ちている」
軽く伸びをした未来は、空を見上げた。空を覆うのは、星の煌きだった。
あの光が数百年、数千年前の光だとは俄かに信じられない程、生命力に溢れている姿。
私も負けちゃいられない。
理由の無い対抗意識を燃やした未来は、精神を集中させながら言葉を語り始めた。
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