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鬼がいた。
比喩でも何でもなく、紛れも無い鬼である。
身の丈は二m以上もあるだろうか。
巨躯、であった。
「――――――――!!」
文字に出来ぬほど醜悪な雄たけびを、鬼は咆げる。
歓喜の叫びだった。
何が鬼をそうさせるのか。
理由は、鬼の下腹部と繋がっている女だった。
鬼の剛直を出し入れされているのは、年若い全裸の女。体は全身が傷だらけで、目も焦点を合わせていない。だが、死んでいるわけではなかった。
「っ――――」
鬼が動くたびに苦悶の声をあげている。
女は思う。
この世界は狂っていると。
夜から人が放逐されてから、どれほどの時間が経っただろうか。
夜は既に人の領域ではない。
妖魔、と呼ばれる人類の天敵の領域なのだ。
彼らは家に篭っていても、押し入って人を襲う。
助かる術は無かった。
ただ彼らに目を付けられたら、運が悪かったと諦めるしかないのである。
その点、女は運が悪かった。
繰り広げられているこの惨状は、その一言で片がついた。
運が悪かった。
とても、運が悪かった。
女が何か罪を犯したのか。
否。女は善良な市民であった。
ただ近場に鬼が現れて、目を付けられた、という話しであった。
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