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その頃、コウヤはミリアが横を通り過ぎたのは気づいていたが、自分の練習に集中していたため、追うようなことはしなかった。
「だーーーー!ちっきしょーーー!」
何枚かの葉を細かく砕いたあと、コウヤは空に向かって吠える。そのままばったりと後ろに倒れ、空を見る。
コウヤの視界に小鳥が入り、さえずる。
「……いいなぁ。俺も鳥になりたい」
「こら!何サボってんだ!」
がばりと上半身を起こし、辺りを見回すと腰に手を当て、呆れた風情のクロノスがコウヤを見下ろしていた。
「なんだ……クロノスか……」
「……ご挨拶だな。望み通り鳥の丸焼きにしてやろうか?」
手の関節をボキボキと鳴らし、コウヤを威嚇する。
爽やかな笑顔の下には、鬼が睨んでいる。コウヤは慌てて、前言を撤回する。
「冗談だよ!冗談!」
余りに慌てているのが面白く、クロノスは威嚇を止めて、コウヤの横に腰を下ろす。
「出来るようになったか?」
クロノスの問いにコウヤは無言で前を指差す。
そこには切り刻まれた葉が山になっている。
「どうも上手くいかない」
山を睨みながら、コウヤは片胡座をかきその上に肘をつく。
「……コツを教えて欲しいか?」
クロノスは静かにコウヤに問う。
すぐに食いついて来るだろうという、クロノスの予想に反し、コウヤは首を横に振った。
「……いや、いい。ここで妥協したら、俺の目標が遠のく」
「目標……なんだそれ?」
コウヤの返答に目を一瞬、丸くしたもののすぐに戻し聞き返す。
「おうよ!俺の目標はクラウディアに入って、銀扇様や龍騎士様と肩を並べることだ!」
熱弁を振るうコウヤは立ち上がり、空に向かって拳を高々と掲げた。
「………」
目を白黒させたクロノスをよそに、コウヤは尚も熱く語る。
「人類最強の銀扇様とその右腕とも言うべき龍騎士様!いつか、俺もそれに加わりたいんだ!!」
「………頑張れ」
「おう!よし、やる気でた!練習再開だぁ」
複雑な表情のクロノスを見ることなく、コウヤは勢い良く走り去った。
その背を何かをやり過ごすような沈痛な面持ちで、見送るクロノス。
コウヤの目標は誰もが思い描くことだろう。しかし、皆が羨むほど“銀扇様”は綺麗ではない。
リアンはともかく、クロノスの手は紅に染まっている。今の地位を得るためには、血塗られた道を少なからず通る。
影の部分を知らないコウヤがちょっとだけ、眩しく見えたクロノスだった。
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