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俺は我慢できずに静かに眼を閉じているギンに声をかけた。
『ギンさん。ギンさんも、Jさんも、もちろん俺も人間を憎んでいるだろう?
でもJさんは人間がいないと俺たちは生きていけないと言った。どうしてだい?』
ギンの眼がゆっくりと開き、俺をじっと見ながら言った。
『ハル、お前眼が覚めてから何か食ったか?』
そういえば眼を覚ましてから水しか飲んでいなかった。
俺はギンの問いに首を振った。
『だろうな。俺たちが生きているこの世界は人間の支配下にある。
俺たちはあいつらから力ずくで食い物を奪うか、あるいはデコを地にすりつけてでもおこぼれにあやかるか…。そんなことでもしない限り、俺たちは生きちゃいけないのさ。そらよ。』
俺の目の前に放り投げられたのはひとかたまりの肉だった。
『え…これ…?』
ギンは白い歯を見せニカッと笑った。
『食えよ。腹空かしたままくたばっちまっても困るからな。』
俺はギンがくれた肉にかぶりついていた。
物が喉を通っていく感覚と、口の中に広がる味覚に体が震えた。
『いいか、ハル。生きたきゃどんな手を使ってでも食わなきゃならねぇ。例え憎んだ相手に媚びへつらうことになってもだ。
俺たちのような野良者にはそれしかねぇ、忘れるなよ。』
ギンの言ったことを頭にたたきこみながら、俺はしばし時を忘れ生まれて初めての食事に酔いしれていた。
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