~出会い~

6/11
前へ
/70ページ
次へ
俺は我慢できずに静かに眼を閉じているギンに声をかけた。 『ギンさん。ギンさんも、Jさんも、もちろん俺も人間を憎んでいるだろう? でもJさんは人間がいないと俺たちは生きていけないと言った。どうしてだい?』 ギンの眼がゆっくりと開き、俺をじっと見ながら言った。 『ハル、お前眼が覚めてから何か食ったか?』 そういえば眼を覚ましてから水しか飲んでいなかった。 俺はギンの問いに首を振った。 『だろうな。俺たちが生きているこの世界は人間の支配下にある。 俺たちはあいつらから力ずくで食い物を奪うか、あるいはデコを地にすりつけてでもおこぼれにあやかるか…。そんなことでもしない限り、俺たちは生きちゃいけないのさ。そらよ。』 俺の目の前に放り投げられたのはひとかたまりの肉だった。 『え…これ…?』 ギンは白い歯を見せニカッと笑った。 『食えよ。腹空かしたままくたばっちまっても困るからな。』 俺はギンがくれた肉にかぶりついていた。 物が喉を通っていく感覚と、口の中に広がる味覚に体が震えた。 『いいか、ハル。生きたきゃどんな手を使ってでも食わなきゃならねぇ。例え憎んだ相手に媚びへつらうことになってもだ。 俺たちのような野良者にはそれしかねぇ、忘れるなよ。』 ギンの言ったことを頭にたたきこみながら、俺はしばし時を忘れ生まれて初めての食事に酔いしれていた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加