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『いいか、ハル。あれは人間たちが使う車っていう機械だ。生き物じゃない。』
どうやらあれは、人間がより速く移動するために人間によってつくられた物らしい。
俺のにらんだ通り、
過去にJの仲間も、車に引かれて命を落としたことがあるようだ。
人間の力はすさまじい…その気になれば、俺たちのような野良者はあっという間に一掃されてしまうのではないかと身震いした。
『Jさん、どうして俺をここに連れてきたの?』
ギンの足と車にどんな関係があるのか、Jが自分のせいだと言った真意を教えてほしい気持ちが強かった。
Jはしばらく黙ったあと、ゆっくりと口を開いた。
『一年前の夜、俺はこの場所でとなり街から来た野良者との縄張り争いに負けちまった。』
全身にある傷をじっと見ながら、Jは話を続けた。
『となり街の野良者どもはかなりの大集団で、他の野良者の縄張りだろうとおかまいなしなのさ。
俺はいつものように魚を一匹人間から盗んだ。気が付くと五匹の野良者に追い回された挙げ句、ここで袋叩きにされちまった。あいつらは俺を張ってたんだろう。』
Jはツメで地面をガリッと削りながら、視線を遠くに向けた。
『もうだめだ…当時の俺は野良者になったばっかりでまだ弱く、すぐにあきらめちまっていた。
そんな俺を救ってくれたのがギンさんだったんだ。』
袋叩きにあっていたJの眼には、鋭いツメと身体の芯まで凍り付くような咆哮で相手を威嚇するギンの姿が映っていた。
五匹の野良者はギンの迫力に圧倒され、その場から立ち去ったという。
しかし…
身体に力が入らず倒れこむJと、敵を追い払ったギンが安堵したその瞬間だった。
Jが倒れている場所に一台の車が走ってきたのだ。
時間は夜、運転している人間はJに気付いていない。
死を覚悟したJを、身を呈して救った代償は大きかった。
『ギンさんは、俺の代わりに後ろ足を車にけずられ、今のように動けなくなっちまった。全部…俺のせいなのさ。』
そうだったのか…。
動けないギンに毎日食糧を運んでいるのも、きっとJなのだろう。
ギンとJはそういう絆のもとに共に生きているのだと知った。
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