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Jの歩みは一軒の空き家の前で止まった。
『ここが俺たちのアジトだ。今日から好きに出入りしていいぜ。』
中に入ると、くたびれてはいるが雨風をしのげる程度の造りにはなっていた。
『おう、新入り。歓迎するぜ。』
でっぷりと太った白黒まだらの猫が野太い声でそう言った。
『こいつはハル。三丁目の路地から連れてきました。』
Jが気を遣ってか、俺を紹介してくれた。
目の前にいる猫の迫力に気圧され、一言も発することができない俺を見抜いていたのかもしれない。
『そうか…ハルか。よろしくな。俺はギンっていう名だ。覚えてくれよ。』
よく見るとギンは銀色の首輪をしている。それでそんな名前で呼ばれているのだろうか。
しかし、よく見ると俺はもちろんのこと、Jも首輪などはしていない。そう思うと、俺の興味はギンの首輪に向いてしまっていた。
俺の視線に気付いたのか、ギンは自分の首輪に眼を向けた。
『これか?これは俺の意志では外れやしない一生の傷だ。』
ギンはそれ以上何も語ろうとはしなかった。
その沈黙を破るかのようにJが俺に声をかけ、アジトの中を案内してくれた。
『他に仲間が二匹いるんだが、あいつらはしょっちゅう出かけたまま留守にしやがる。まぁ、会ったときにでも紹介するよ。』
そう言ってJはアジトの外へ出ていった。
アジトには俺とギンの二匹だけになった。
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