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そんなことはさておき、いつ中に入れるのかと考えながら、左手首を見る。時刻は分からない。
だって俺は腕時計なんてはめていない。ただ、ポーズをとってみたかっただけ。
ちなみに、いつも時間は携帯電話で確認する。
腕時計がないから携帯電話を使うのか、携帯電話があるから腕時計を使わないのかは、自分でもどっちか分からない。
そんなことはどうでもいいのだが。
暇なので今のうちに自己紹介を丁寧にしておこう。
俺の名前は神村 愁(カミムラ・シュウ)。
高校生一年。現在、女一人とアイツと共に同居中。
こうなった理由は色々あるのだが、また話すべき時が来たら話そう。
丁寧とは言ったが、自己紹介はこの辺で終わろう。いや、終わらせてくれ。
「トイレに行きたい」
そう、さっきから微妙に我慢してたのだ。けど我慢し続けるのはよくないらしい。出すものは出せってことなのかも。
出来れば一瞬でも早く家の中に入りたいのだが、おそらく無理な要望だ。アイツらが応じるわけがない。
しかし、言ってみる価値はある。やらないよりはやってみる。この行動力こそが不可能を可能にすると信じているから。
「おーい」
声のボリュームを、通常会話の時よりもちょっと大きめにして呼んでみる。
ちょっと、というのは、現在は月が出ている真夜中。当然のことながら大声を出すのはご近所さんに迷惑だし、近所付き合いは出来ればよくしていきたいので、そこのところは色々と配慮している。
「返事がない。ただの屍のようだ」
言ってみたかったんだ、これ。
「誰が屍ですって!?」
勢いよくドアが開いたおかげで、頭、膝の順におもいっきりぶつかった。
「冗談だから冗談! そんなことより早くちゃんと服を着ろ!」
全身を覆い尽くすほどのバスタオルを片手に持ち、前だけを隠しながら彼女はドアを開けてきたのだ。身体に巻くならまだしも、片手で持っているとなると心臓がドッキュンドッキュンする。
「あっ、それとだな。ドアはゆっくり開けろ」
「うるさい! エッチな目つきで人の身体を眺めるような、まるで変態としか言いようがない生ゴミ以下の奴なんかに文句言われる筋合いはないわよっ!」
と、マシンガントークを炸裂する彼女こそ、西城 智美(サイジョウ トモミ)。現在、俺と同居している。
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