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悪くない。彼女は、親島が悪くないという時はかなり良いのだということを知っている。
少女は軽く頷いてから、視線を窓の外に戻す。
そして、膝の上の竹刀袋をしっかりと握りしめた。
日は、ゆっくりと、ゆっくりと沈もうとしている。
†
時刻は6時3分。
「ただいまー」
鍵をあけ、玄関のドアを開いた翼は、薄暗い室内に向かって声をあげた。
帰ってくる返事はない。
翼は対して気にもせず、すたすたとリビングへと入っていく。
壁のスイッチを押して明かりをつけると、よくあるダイニングキッチンが浮かび上がった。
入り口正面に四人掛けのテーブルと椅子。
その右手には、キッチンがあり、シンクには皿が2枚浸かっている。
入り口と対角の壁には最近地デジ対応にしたテレビが置いてあり、その前にソファーと四角いちゃぶ台が居座っていた。
テーブルの上には、倒れた写真立て。
「座りわるいな…直さなきゃな」
翼は小さく呟くと、倒れた写真立てを起こす。
そこには、テンガロンハットを被った笑顔の男性と、同じように笑顔だが、どこか儚げな印象が漂う、色の白い女性が写っていた。
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