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「ただいま。父さん、母さん」
翼は写真立てに向かってそう言うと、カバンをソファーに向かって放り投げ、それから台所に立った。
翼はもう1年ほど、すなわち高1の時からここで1人暮らしをやっている。
母は翼が小学校に上がる頃に、病で亡くなった。
男手1つで翼を育ててくれた父は、今は仕事で海外。
と、まぁ家には自分1人。自炊や家事などはあるものの、翼は気ままに寂しい生活を送っているというわけだ。
ピー、と炊飯器のブザーが鳴り、ご飯が炊けたことを良い匂いと共に教えてくれる。
翼はフライパンで焼いていた鶏肉を器に盛ると、刻んだキャベツをその横にのせた。
昨日作ったほうれん草のおひたしの大皿を冷蔵庫から出して小鉢にとり、炊飯器から炊きたての白米を青い茶碗によそう。
もう1つの黒いお椀に湯気の上がる味噌汁を注いだ。
それらをテーブルへと運び、翼は1人の夕食を始める。
もう慣れっこになったつもりだが、やはり1人で食べる食事は味気ない。
翼は賑やかしのつもりで、リモコンでテレビをつけた。
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