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テレビのチャンネルはちょうど夕方のニュース番組で、ショートカットの女性リポーターがどこかで中継をやっていた。
「って、あれ? これって南乃宮じゃん」
小声だが、思わず呟いてしまった翼は箸を止め、じっとテレビに見いる。
リポーターが早口で何事かをまくし立てているその場所は、紛れもなく翼たちが住んでいる街、南乃宮市だ。
『―――行方不明となった会社員の―――さんが最後に目撃されたのは、ちょうどこの場所でした。この地点から数十メートル離れたところからは―――さんのものと思われる多量の血痕が見つかっており、警察では―――さんが何らかの事件に巻き込まれたとみて捜査して――――――』
リポーターが読み上げたニュースは、大体こんな内容だった。
翼は食べることも忘れ、じっとテレビを見つめていた。
南乃宮市はその規模にしては治安がいい。
大きな暴力団などもないため、たまに起こる犯罪といえば空き巣やひったくりくらいのもので、今日のような流血事件は、真相はどうであれ、翼にとっては恐ろしくあり、同時に珍しくもあった。
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