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時は平安。
木々が鬱蒼と覆い繁る、深い山の中。
重厚そうな鎧に身を包んだ数騎の武者が、真剣そうな面持ちで駒を進めていた。
「頼光どの」
不意に、脇の茂みから軽装の若武者が現れ、先頭を進む武者の前で膝をついた。
「うむ。して、首尾はどうだ?」
先頭の武者は手綱を操って馬を留めると、その鋭い眼光で若武者に問う。
若武者は今一度深く頭を垂れると、よく通る声で報告を始めた。
「はっ。きゃつらの根城である岩屋の包囲は完了しました。ですが、親玉だけは、拙者どもの手ではどうにもならず、犠牲者が続出しております」
親玉『だけは』と強調したのは、この若武者のせめてもの意地か。
たしかに、今回の相手は人間の手に負えるものではない。
だから、彼が呼ばれたのだ。
清和源氏の嫡流、源頼光。
鷹を思わせる鋭い眼差しが、森の出口をしたと見据えた。
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