愛染

2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 童子達も出払い、静まり返った本殿。俺は愛染に書状を飛ばし、こちらに来るよう呼び出した。  酒の準備も整わぬうちに、戸口に人影が立つ。 「愛染、参りました」 「早いな、馬頭並だ。まだ肴もできとらん」 「手伝いましょうか」  自慢ではないが、日頃食べ盛りの童子らを養っているから、料理には自信がある。  俺は調理場に寄って来た愛染を軽く手であしらった。 「こっちは任せろ。お前最近、孔雀に楽の音など習っているそうじゃないか。そこにある竪琴でも弾いて」 「この琴、童子達は?」  やれやれ、こんな話をしている間に肴ができあがってしまった。 「ああ、童子らは烏枢沙摩先生引率で下界に遠足だ」 「あー、悪心浄化の補佐ですね」  酒の相手に相応しくない女神だ――という言葉は呑み込み、皿をこれまた色気もない文机に並べる。  とりあえず料理と酒でもてなし、程よく腹くちくなったところで、俺は本題を切り出した。 「なあ愛染、」 「合神のこと?」 「察しがいいな。地蔵界からのお達しは絶対だ、断るのは容易じゃないぞ」  少したたみかけると、愛染は俯いてしまった。急に罪悪感に襲われる。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!