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――平穏な暮らしを取り戻した今もなお、俺は忘れられずにいる。あの日のこと。友を失った日のこと――
俺が一族の長に選ばれた頃、あいつも俺も、まだ青二才と呼ばれるような若輩だった。
多く思慮に欠け、一族を徒に翻弄する事態に陥ったのも、今ではまるで夢語りのようだ。
俺達の砦に現れた奴ら一族を、友好訪問と勘違いし、受け入れた時から、全ての歯車が狂いだした……
「なぁ、阿修羅。それでも俺は、今だってお前のこと、唯一無二の友だと思っている」
あいつが、あの腹黒親父に騙されて良い様に操られていたのは、随分昔から解っていたのに。
俺は奴を救うどころか、一族の仇として戦わなければならなくなった。
しかも、本当の意味で一族に仇為した摩候羅伽(まごらか)には、手出しもできなかった……
どんなに悔やんでも、悔やみきれない。
未だ煮え切らぬ思いを冷ますため、眼下に広がる雲海を眺めていると、不意に背後で気配を感じた。
「不動様、またそのぼやきですか?」
背面の顔を無意識に閉じてしまっていたらしい。振り返るとそこには、馬の頭飾りをつけた見慣れた顔が、膝をついて控えていた。
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