不動

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 それに加え、だ。他の先輩方にはきちんと敬語を使うくせに、俺に対しては、 「よぉ、愛染」 「あ、不動……何の用?」  ――呼び捨てときたもんだ。  確かに、戦時中は仮住まいも隣同士、愛染は俺のことを同世代と間違えていた節があったから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。  俺は一瞬、館の入口で呆然としてしまった。慌てて顔を引き締める。 「お前、一族の長に対して礼儀がなっとらんぞ」 「あっごめんなさい。不動ぅ、様、ううん、どうしてこんなに言いにくいのかしら?」 「それはこっちが聞きたいよ……まあいい。お上からのお達しだ」  愛染は首を傾げつつ(しかし渋々といった様子で)、椅子から降りて膝をついた。  ようやく上下関係が成立したところで、俺はおもむろに口を開く。 「地蔵界から、合神せよと言ってきた。相手選びはお前に任せる」  『合神』と聞くなり、彼女は顔を強ばらせた。俺から視線をそらし、しばらく泳がせる。 「……どうしても、選ばないといけない?」 「そりゃ、上からのお達しで、お前名指しだし」  声は明らかに震えている。男神に何か嫌がらせでもされたのだろうか。
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