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目の前で静かな微笑を浮かべているのは、紛れもなく花畑の中で歌を奏でていた、あの娘だ。
喉が引き攣って声を出せない少女を尻目に、娘はゆったりした笑みを絶やさない。
「ごめんなさいね。貴女を驚かすつもりは、なかったのよ」
嘘を吐け、という言葉をようよう呑み込んだ少女は、娘を見上げた。
遠目にも美しかった彼女は間近で見ると本当に、人形のように整った顔をしていることが分かる。
少女の熱心な視線を柔らかな微笑で受けとめた娘は、そっと片手を差し出した。
また首を掴まれるのかと恐れた少女だが、娘の手は少女の目線の高さで止められる。
「 お立ちなさいな 」
優しげな声だった。
少女は素直に、その手を取ることにした。
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