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「 分からないの。自分の名前も 」
今までそのことを極力考えないようにしてきたが、一度自覚してしまうと、それは突如として牙を剥く。
自分がどこの誰だか分からないという不安が、少女を追い立てていった。
だがミーナはふわりと笑んだ。
それは、幼い子供を安心させようとする母親のそれに似ていたかもしれない。
「 私が貴女の名を差し上げるわ。名乗るものがないと不便だもの。ニナ、というのは如何かしら 」
自分の名前をこれで良いかと聞かれるなんて、奇妙な気分だ。
「 ニナ 」
少女は声に出して反芻する。
不思議なことにその名は、おかしなくらい喉に馴染む。
「 ……うん、それで良いと思う 」
「 お気に召して頂いて嬉しいわ。私のことはミーナと呼んでくれて結構よ 」
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