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少女はようやく森を抜けた。
気持ち良いくらい急激に視界が開け、暗さに慣れていた目を太陽の光が鋭く射抜く。
少女は目を閉じなかった。
目の前の光景が、それを忘れさせていた。
澄んだ声音。
滑らかな旋律。
優しげな音色。
麗しい声が静かに、響く。
その声だけが、この空間の全てを支配していた。
声以外は何も聞こえない。
耳が他の雑音を拒んでいるのか、もしかしたら、少女同様に、木や風も動くことを忘れてしまったのかもしれない。
風など吹いていないのに、全身をぞわぞわと、言い知れない強張りが走る。
その歌声は少女に、身動きをするくらいなら、全ての神経を耳に集中させるべきだと思わせた。
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