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ただ、少女が心を奪われたのは、歌声だけではなかった。
周囲を背の高い木々に囲まれた小さな空間には、一面に花が咲き乱れている。
色とりどりの花の、その真ん中に、娘は立っている。
鮮やかな桃色の髪をして、肌は真珠のように白く、空を仰ぐ両目は深い紅色だった。
まるで花の化身であるような娘は、太陽の煌煌たる光芒を身にまとい、白い喉を反らして、音を放つ。
美しい音とは、まさにこのことをいうのだろう。
ふと、娘がこちらを見やる。
そして、にこりと、笑んだ。
――声が止む。
「 ! 」
少女はその笑みで我に返った。
同時に自分が、歌を聴いている間、呼吸も瞬きもしていなかったことに気が付く。
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