世界を創る歌姫

3/22
前へ
/143ページ
次へ
 ただ、少女が心を奪われたのは、歌声だけではなかった。  周囲を背の高い木々に囲まれた小さな空間には、一面に花が咲き乱れている。  色とりどりの花の、その真ん中に、娘は立っている。  鮮やかな桃色の髪をして、肌は真珠のように白く、空を仰ぐ両目は深い紅色だった。  まるで花の化身であるような娘は、太陽の煌煌たる光芒を身にまとい、白い喉を反らして、音を放つ。  美しい音とは、まさにこのことをいうのだろう。    ふと、娘がこちらを見やる。  そして、にこりと、笑んだ。  ――声が止む。   「 ! 」    少女はその笑みで我に返った。  同時に自分が、歌を聴いている間、呼吸も瞬きもしていなかったことに気が付く。  
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加