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動かない体でうろたえる由美を見上げて思う。
昨晩、僕は彼女に遠回しながらも告白された。
でも、まだ僕は返事をせずにいる。
そうしてしまうのは、さっき彼女が言ったように『僕たちが付き合ってると思われるのが嫌だ』という気持ちが僕の心のどこかにあるからだろうか?
それとも、僕が恋愛に疎いからだろうか?
……分からない。
彼女は昨晩、こうも言った。
『人が人を好きになることが不思議で、分からない』
……うん。
僕も、不思議に思うし…分からないんだ。
それが分からないのに、いきなり『僕たちは恋人同士です』なんて…僕には言えない。
僕は…言えない。
だから、しばらくは恋人としてではない高崎由美と居たい。そう思う。
「あのさ…」
うまく動かない体をなんとか上半身だけ起こして、狼狽する彼女を見上げる。
「返事…。あ…えっと、昨晩の返事だけど…」
こんなタイミングで言うべき事じゃないけど、言っておかなきゃならない話だから、僕は壁にもたれながらでも彼女に伝えようと試みた。
「と、とにかく今日はバイト休んで!えっと、あ!わ、私のベッドで寝てて?うん、店長には私から言うから!えっと、あと、ごめんなさい!と、とにかく、ベッドまで……よいしょっ…っくぅん!!」
ぜんっぜん…聞いてないよ、彼女…。
僕をベッドにと必死に引っ張る姿に、思わず苦笑いで言うべき言葉を飲み込んでしまう。
こうして僕と由美は不思議な二人になった。
とても自然体で、クルクル表情の変わる五つ年下の……子供みたいな、大人みたいな、ちょっと変な奴――高崎由美。
少なくとも、彼女と一緒にいれば、今までにはない賑やかで楽しい日々になりそうだ……そう心の中で感じられる。
彼女の僕にたいする気持ちも忘れて、僕は彼女に引きずられ入った彼女のベッドの中で思った。
微かに彼女の香りがするシーツが心地よくて……落ち着かない。
でも、しばらくは、こうしていたいな。
そんな風に、心配して覗きこむ彼女の視線に照れながら、僕はわざと瞼を閉じて寝るふりをしていた。
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