(★)愛しているのは貴方だけ

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  「……不覚だわ」 「そんな荷物持って腕振り回すからだ」 「何よ!」 「サン?」 聞き慣れた少し高めの声が、 オレの名前を呼んだ。 振り向くと、待ちきれなくなったのか 少し息を切らしたユーリが立っていた。 走って探してくれてたのか? 嬉しさ半分、申し訳なさ半分で 複雑な気持ちだが、やはり嬉しかった。 「ユーリ!」 「……サン…取り込み中だったか……。 その、ちょっと……買い物、してくる」 冷たい声でそう言うと、 ユーリは街へ消えた。 「最悪ね。こんなとこを見られるなんて」 「なんで?」 「……残り少ない脳みそで 状況を確認してごらんなさい」 いちいち勘に障る奴だな。 だいたい、今の状況って…… 「あ……!」 そうか、そういう意味か。 オレはいま、バランスを崩した ジェニファを支え抱えている。 つまり、抱き合っている状態だ。 しかもオレの手はバッチリと ジェニファの腰に回っていて、 ジェニファの手はオレの胸に 添えられていて…… 恋人同士みたいに…… 抱き合っていて……? 「ユーリに誤解された?!!」 「時間がかかったわね、脳みそ筋肉くん。 ……これは誤算だったわ」 忌々しそうに呟く彼女は、失敗だわ……と嘆いた。 「まずい、まずいぞ! せっかくユーリから誘ってくれた 滅多に出来ないデートなのに!!」 「わたしだってユーリに貴方を 盗っただなんて思われたくないわ! 頼まれても嫌よ! ……って待ちなさい。 今貴方なんて言った? ユーリが貴方をデートに誘った?! 有り得ない、有り得ないわ! 誇大妄想も大概になさい!」 「そっちこそいい加減に諦めろよな! ユーリはオレのものなんだ!」 「そっちこそいい加減都合の良い夢から 覚めたらどうなの?! 買い物を優先させてもらっただけで で、デートだなんて……っ!」 そんな羨ましい! そう言ってジェニファはもと来た道を 足早に戻り始めた。 「どこいくんだよ!」 逃げるのかと思って呼び止めると、 それはもう鬼の形相で振り向かれた。 「ユーリを捜すに決まってんでしょ!! どこまで馬鹿なのよ貴方は!!」  
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