(★)愛しているのは貴方だけ

8/25
前へ
/41ページ
次へ
  ――――…… サンを見送った後、 オレはそこからあまり離れすぎない範囲で ウィンドウショッピングをしていた。 カラフルな色合いをした 子供向けのお菓子やオモチャ、 クリスマスカラーの大きなボックスの中に 白い袋を担いだサンタが入っていたり、 どこかの童話に出てきそうな 王子様とお姫様がワルツを踊っている、 小さくて可愛らしいオルゴール。 どれもこれもキラキラと輝いていて、 自分達が今日の主役だと胸を張っている。 「俺にも、あんな頃があったんだな……」 遠い昔のように、他人事のように呟いた 言葉は人々の雑踏に掻き消された。 自分にも、クリスマスにオモチャを ねだるような頃があった。 両親と一緒に今日という日を 楽しむ自分がいた。 サンタを信じ、明くる朝靴下を覗くのが 楽しみで仕方なかったあの頃……。 「……もう、何を貰ったかなんて ほとんど思い出せないな……」 ぽつりぽつりと浮かぶ微かな思い出は、 軽く鈍い頭痛を伴って反芻される。 良いことばかりではなかった。 両親が離婚したのがクリスマス・イヴで、 母親が知らない男と寝たのが誕生日。 盗みを始めたのが14歳の明日で、 怪盗として生計を立て始めたのは それから5年後の2月……。 「よく今まで生きてこられたな、俺」 自嘲気味に苦笑すると、 ガラス越しに店の店員と目が合った。 当たり障りなく笑みを浮かべると、 頬を染めて微笑みを返してくれた。 下手に声を掛けられる前に逃げよう。 そう思った俺は、少し戻りの遅いサンを 捜しに行く事にした。 「どこ行ったんだ、あの二人は……」 二人が消えた方に足を動かしたのと 店員が店から声を掛けたのは同時だった。 シカトだシカト。  
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加