序章

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「朝まで帰ってくるなよ」 ひらひらと父の手のひらから万札が2枚、水たまりへと吸い込まれていく。 一夜過ごすだけでこんなにお金が必要になるわけもないだろうに。 だいたい、どこからこんな金が入ってくるんだ。 俺の記憶から行けば、父はそんなに高い給料の仕事をしている訳じゃないはずだ。 そんな考えを巡らせていると、父は黙って扉を閉めた。 パタン… と静かな音で閉まった扉。 その風で、水たまりに浮かんだ札がゆらゆらと揺れる。 俺は万札を拾い上げ、いちど折ってからジーンズの後ろポケットに突っ込んだ。 ひんやりと冷たい感覚がある。札はもうかなり水を吸い込んでいたらしい。
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