7人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「朝まで帰ってくるなよ」
ひらひらと父の手のひらから万札が2枚、水たまりへと吸い込まれていく。
一夜過ごすだけでこんなにお金が必要になるわけもないだろうに。
だいたい、どこからこんな金が入ってくるんだ。
俺の記憶から行けば、父はそんなに高い給料の仕事をしている訳じゃないはずだ。
そんな考えを巡らせていると、父は黙って扉を閉めた。
パタン…
と静かな音で閉まった扉。
その風で、水たまりに浮かんだ札がゆらゆらと揺れる。
俺は万札を拾い上げ、いちど折ってからジーンズの後ろポケットに突っ込んだ。
ひんやりと冷たい感覚がある。札はもうかなり水を吸い込んでいたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!