第1話

2/27

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
声の主は、見覚えのない男だった。 右手にはビニール傘 左手にはコンビニ袋 これは確実に 買い物の帰りだ。 補導員でもなんでもない。 良かった。 ほっと緊張がとける。 「何してるんだ。こんな時間にこんな雨の中。傘もささないで」 男はそう言って、ビニール傘を俺の頭の上によこした。 その傘の柄には、コンビニのシールが貼ってある。 これもコンビニで買ったのか。だとしたら雨は降り始めてまだ間がないのかもしれないな。 「早く家に帰れよ。親御さんが心配するぞ。っつか、風邪引く」 男は、自分が濡れていくのはお構いなしに俺に呼びかける。 「あんたに関係ないだろ。自分がさっさと帰ったらどうだ。おっさん」 トゲのある声で言ってやると、コンビニで買ったらしきビニール傘が男の手から滑り落ちた。 傘は風にあおられてみるみるうちに遠くまでとばされた。 それを見て、俺は風が強かったんだと言うことに始めて気づく。 「おっ…おっ。おっさ。おっさ………」 まるで壊れたラジカセだ。 俺が傘のとんでいった方向を見続けていると、しばらくしてやっとラジカセは直ったらしい。 男の口から意味のわかる言葉が発せられた。 「おっさんて。俺はまだ25だ。バカヤロウ。お兄さんと呼びやがれ」 あ。口の聞き方に気を付けろとか、そう言う事じゃないんだ。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加