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優しい光で包まれる朝の町を、どんよりとした暗い顔で歩く伊九次。
すごく浮いているが、あまりの存在感の無さに誰も振り向きはしなかった。
駅の近くになると、朝っぱらからナンパをしている若者達がいた。
どうやら、大学生らしい。
いつものように、無かったことにしよう。
自分は、関係ない……聞こえないし、見えない。
こう考えるのが世の中を安全に渡っていく術なのだ。
「や、やめてっ!!」
若い頃の自分の妻の声に似ているな、と思ったがやはり振り返りはしなかった。
「いいじゃん、ね?俺ら奢るからさぁ~」
馬鹿っぽそうな喋り方だ。
「いやっっ!!」
何か抵抗するような感じの声に、伊九次はナンパされている女性の方を振り返り見てしまった。
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