2005/1/4

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 真波は部屋の中を見回して、転がっている物から一冊を手にとると、適当な場所を開き当てた。 「……ふーむ。なるほどのう。お主はこの二年間、ずっと『夢』を学んでおるのか……。そしてその為の書物が海津には無いと……、なんじゃそう言うことであったか……」  真波は思案顔でその本に視線を落として何やら呟いていたが、暫くすると安堵したように頬を緩め、大きく頷いて勢いよく本を閉じた。  そしてここに現れた時と同じく勝ち気に笑い、コートのポケットをまさぐりだすと、 「……励めよ。文敏!」  そう言って、文敏に巾着袋を投げて寄越した。  文敏は不意に飛び込んできた巾着袋を両の手のひらに納める。  思ったよりもずっと軽いその袋の中には、感触から察するに何やら板状の物体が入っているらしい。 「何ですか? これ」 「なに、大したほどの物ではないが土産じゃ」 「──開けてもいいですか?」  真波は言葉の代わりに頷きを返す。  文敏は巾着の紐をほどき、その口を開く。袋を逆向けると、手のひらに現れたのは赤と白の平たい巾着袋。 「……御守り?」  見れば赤い物には『健康祈願』、白い物には『学業成就』の文字が。 「うむ、真波神社の御守りじゃ。お主にはこれくらいしかしてやれぬのが心苦しいが、受け取ってくれ」 「あ、ありがとうございます」  その文敏の言葉を満足げな笑顔で受け止めると、彼女はゆっくりと立ち上がった。 「さて、ではの。文敏」 「え、もう帰るんですか?」 「ああ。聞きたい事は聞けたことじゃし、渡したかったものも渡した。それに何より、お主に逢えたしの」  真波は柔らかに微笑むと、真っ白なコートを翻し、軽やかに一歩を踏み出した。
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