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真波は部屋の中を見回して、転がっている物から一冊を手にとると、適当な場所を開き当てた。
「……ふーむ。なるほどのう。お主はこの二年間、ずっと『夢』を学んでおるのか……。そしてその為の書物が海津には無いと……、なんじゃそう言うことであったか……」
真波は思案顔でその本に視線を落として何やら呟いていたが、暫くすると安堵したように頬を緩め、大きく頷いて勢いよく本を閉じた。
そしてここに現れた時と同じく勝ち気に笑い、コートのポケットをまさぐりだすと、
「……励めよ。文敏!」
そう言って、文敏に巾着袋を投げて寄越した。
文敏は不意に飛び込んできた巾着袋を両の手のひらに納める。
思ったよりもずっと軽いその袋の中には、感触から察するに何やら板状の物体が入っているらしい。
「何ですか? これ」
「なに、大したほどの物ではないが土産じゃ」
「──開けてもいいですか?」
真波は言葉の代わりに頷きを返す。
文敏は巾着の紐をほどき、その口を開く。袋を逆向けると、手のひらに現れたのは赤と白の平たい巾着袋。
「……御守り?」
見れば赤い物には『健康祈願』、白い物には『学業成就』の文字が。
「うむ、真波神社の御守りじゃ。お主にはこれくらいしかしてやれぬのが心苦しいが、受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
その文敏の言葉を満足げな笑顔で受け止めると、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「さて、ではの。文敏」
「え、もう帰るんですか?」
「ああ。聞きたい事は聞けたことじゃし、渡したかったものも渡した。それに何より、お主に逢えたしの」
真波は柔らかに微笑むと、真っ白なコートを翻し、軽やかに一歩を踏み出した。
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