2005/1/4

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 二台の車がなんとかすれ違えるくらいの狭い道に、ひしめき合う様にして三十弱の店が並ぶ商店街を抜けると、この町で一番大きな神社にたどり着く。  『真波さん』という名で町の人々から親しまれるこの真波神社は、小さな町の大きな神社として初詣の時期には地元民たちによる大きな賑わいを見せている。『初詣と言えば真波さん』と言われるほどにその神社は、この町、海津町の人々から愛されていた。  二年前に海津町から離れた青年、加藤文敏もまた、幼い頃から真波神社への初詣に毎年訪れる海津町の子どもであった。  文敏が海津町を離れ、大学へ通うために坂上市に住むようになったのが二年前の四月。それ以来彼は、大学での忙しさのために海津町に帰省できずにいた。  新たな年を迎えてから四日目のこの日、2005年1月4日の朝にも、文敏は六畳一間のアパートの一室でこたつに足を突っ込みながら、年明け最初の授業のレポート作成に追われていたのである。  正月くらいは海津に戻りたいと思う文敏であったが、年末に出されたレポートの本数の多さに断念せざるを得なかった。  去年に引き続き真波神社を訪れずに過ごす1月の初め。毎年雪の中初詣に行った真波神社を思い浮かべながら、文敏はひたすらパソコンに向かい続ける。  窓の外は、雪。  坂上市に暮らして初めての雪の年明けに、やはり雪でなければな、と思う。 「……ふぅ。ちょっと休憩」  文敏は、パソコンを打つ手を止めると、こたつの上のみかんに手を伸ばした──。  その時。 『文敏ー!』  ドアを叩きつける音とともに、聞き覚えの無い女性の声が六畳一間にこだました。
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