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突然の来訪者の報せにビクリと体を震わせた文敏は、何事かとドアに振り向いた。
声の主はこの部屋のチャイムの位置が分からないのか、何度もドアを殴り付けては文敏の名を連呼している。
『文敏! おらんのかー! ふーみーとーしー!』
何やらただ事では無いような気配を感じ取った文敏は、バタバタとドアに駆け寄るとスコープを覗くのも忘れて焦りながらにドアを開いた。
その瞬間、冬の冷気が勢いよく部屋の中に流れ込んだ──。
「おお、なんじゃ。おるのではないか」
そしてそこには、白いロングコートを着込み、銀の髪を肩の辺りまで伸ばした小柄な美人が一人。勝ち気な笑みを浮かべながら、大きな栗色の瞳で文敏を見上げていたのだった。
さらさらとした銀髪と、透き通るように白い肌が、雪を連想させる。
「おるなら早う出てこぬか。まあ、おったのだから良いか。邪魔するぞ」
その見知らぬ美人は偉そうな口調でそう告げると、文敏をすり抜けてズカズカと六畳一間に上がり込んでいく。
「あ、え? ちょっと! なんなんですか!?」
文敏は慌てて美人の首根っこを掴もうと手を伸ばしたが、彼女はひょいと身を屈めてそれをかわす。そしてその姿勢のままこたつ布団に手をかけると、素早くこたつに潜り込んだ。
「おぉ……。やはりこたつは温くて良いの」
一体この女性はなんだというのだろうか? 文敏は突然の侵入者をただただ見つめることしか出来ない。
こたつ布団を肩までかぶった女性は、暫く背中を丸めてその温もりに浸り、幸せそうに頬を緩めていたが、ふと何かに気付いたかのように文敏の方に振り向くと、唖然とする彼を見て不思議そうに顔を歪めた。
「なんじゃ、文敏。そんなところに突っ立ってないで、お主もこっちに入れ。海津ほどではないとは言え、寒いじゃろう」
彼女は先ほどまで文敏が座っていた座布団を二三度叩いて着席を促すが、混乱している文敏はそれに応じることも出来ず、その場に直立して動けない。
すると女性は小さなため息をついて一瞬黙ったかと思うと、ニマッと口角を吊り上げて不思議な言葉を呟いた。
「……こちらに来ぬのならば、どこかでゴシンボックリでもするかの?」
文敏はそれを聞くや、目を見開いて硬直した。
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