2005/1/4

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「……嘘ですよね? それ」  真波の語る話を全て聞き終えた文敏の口をついて出たものは、疑いの言葉だった。 「なっ……。嘘なものか! 神に向かって失礼じゃぞ、お主」  文敏の言葉に真波の頬が膨らむ。  文敏に語られた事。それは真波が海津町の真波神社に住む神様であり、ゴシンボックリなる遊びを文敏に吹き込んだ張本人であり、実は一月四日が神様の休日であり……、等々、およそ文敏には信じることの出来ない超常的な話ばかりであった。  文敏は元々神様など信じていなかったし、真波がそう主張したところで信じてしまうような人間ではなかった。もちろん、一月四日が神様の休日などと言う話が信じられるはずもない。ゴシンボックリの内容を知っていたことも文敏の友人にあたれば、聞き出せないこともないだろう。  そう考えると、文敏は真波の話を真に受けることなど到底出来なかったのだ。  ……しかし、あの『マナちゃん』の話だけは、彼の心に引っ掛かっていた。なにせ文敏は、あの夢の内容を誰にも明かしたことがない。誰かがあの夢を知っていることなどあり得ないのだ。  ──おかしな夢だった。  目の前で再び超常的な話を展開し、次々とみかんを解体していく真波を見ながら、文敏はあの夢を思い出していた。  真波神社の御神木と、その前で泣きじゃくる幼い自分と、銀の髪を揺らす少女。少女は、泣き続ける文敏に向かって言ったのだ。 『お主、御神木の悪霊を追い払うのを手伝え』と。  その悪霊を追い出す作業がゴシンボックリだった。悪霊などと言うものを本気で信じていたあの頃の自分は本当に幼いな、と今の文敏は思う。  そして真波は、自身がその少女なのだと言う。誰も知らないはずのその夢の人物は自分なのだと。  ──本当にそうなのだろうか?  文敏はそんな非常識な話を認めたくはない。しかし、あの夢の存在を真波は知っていた。  ──そう……、なのかもしれない。  目の前で忙しく口を動かす真波を見ると、それを否定することもどこか躊躇われた。
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