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数瞬の間、文敏はそんな自問自答を繰り返していたが、
「まあ、いいでしょう」
と諦めたようにため息をついた。
「それで、仮にあなたが神様だったとして、自分の神社離れて何してるんですか?」
真波のことを信じたわけではなかった。しかし、害のある人間とも思えなかったのだ。だから文敏は、真波を『自称神様』を名乗る女性として扱うことで、自分を納得させることにした。
文敏がそんな密かな決意を固めるなか、断りもなくみかんを食べていた真波は、その言葉で来訪の目的を思い出したらしく、
「おぉ、そうであったわ」
と声をあげ、軽く机を叩くと身をのりだして文敏を伺った。
そして突然、今までの活き活きとした明るい表情を引っ込め、どこか心配そうに表情を曇らせた。初めて真波が見せる曖昧な表情。文敏はそれを捉えると、妙な緊張に襲われた。心臓の鼓動は耳に届くほどに大きく脈を刻み、加速する。
彼女の目的は果たして……。
真波は表情をそのままに、重々しく口を開く。
「文敏。お主何故、去年も今年も真波神社に来なかったのじゃ?」
「……は?」
しかし、自称神様の問いかけはあまりにも素朴だった。構えていた文敏はその言葉の意図をはかりかね、ポカンと口を開けて間抜けな顔をさらしてしまう。ただ、自分が帰省していないことも知っているのだな、と間抜けな面の下で僅かに驚いていた。
「そんなこと聞きにわざわざ来たんすか?」
文敏は呆気にとられながらも、答えが簡単すぎるその問いに、そう問い返さずにはいられなかった。
──帰れない理由など、レポートが完成しないからに決まっているではないか。
しかし、その返答が気に入らなかったのか、次の瞬間には真波の目がいっぱいに見開かれていた。
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