まどろむ

2/2
前へ
/6ページ
次へ
暖房と、料理で火を使ったことによって、部屋は十二分に温もっている。 満腹感に浸る俺は、ソファの上で船を漕いでいた。 襲いかかるというより、包み込まれるようで、抵抗など出来ない。 甘いものが欲しいと、思っていたはずなのだけれど。 しかし、食欲より睡眠欲は誘惑上手で。 俺はゆっくりと瞼を閉じ、流れるように横になる。 「由真」 頬に何か暖かい物がふれた。 撫でられ包み込まれ、タカハルの手だと言うことに気づくのに時間はかからない。 「ほら、アイス」 優しいテノールが耳をくすぐる。 交響曲のようで、俺の眠気を更に促進させた。 口を開くのもまどろっこしくて、動かずに態度で示す。 まったく、とあきれたような声が聞こえたが、そこに苛立ちや倦怠感など微塵も感じなかった。 「お前が食べたいって言ったのに」 うん、そうだねごめん。 脳内で謝れば、前髪をかきあげられ、額に別の温もりが一瞬触れる。 タカハルは俺のおでこ好きなのかな、なんて。 よくわからない思考が俺をとろけさせる。 そろそろ本当に眠ってしまいそうだ。 「まぁいいか… ……、…」 何か言ってる。 もうわからないけれど、幸せをくれる言葉なのはわかる。 膝と背中を支えられ、持ち上げられるのがぼんやりと感じられた。 ベッドへと歩む揺れが心地よくて、逞しい腕に抱かれる安心感。 ようやく俺は、考えることを止めた。 ありがとう。 おやすみなさい、また明日。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加