真夜中の訪問者

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「藤原君!!!!!!ちょ、これ、何!!!!」 俺は藤原君に声を張り上げた。しかし藤原君はあくびをしながら 「君は本当にビビりだな。ユーレイとかじゃないから安心しろよ。生身のニンゲン。」 それが逆に厄介だけどね、と藤原君は笑った。 俺はどうしてよいのかわからず、思わず覗き穴を見た。好奇心もあったのかもしれない。しかし即座に後悔した。 「うわあぁぁあぁっ!!!」 俺は叫びながら覗き穴から目を逸した。 覗き穴の向こうには、ベコベコにヘコんだバットと、やたらでかいハサミ…立ち枝切りハサミってやつだろうか、それを持って立っている男がいた。 その顔はニタニタ笑っていてヨダレをたらし、迷彩柄のパーカーにはヨダレの跡が染付いていた。目は片方が真っ白くて、(恐らく失明かなにかしたんだろう。)もう片方は血走っていた。 そして、またドアに衝撃が走る。グギャッとか、ベコッとか嫌な音がする。 俺は半泣きになりながら藤原君にしがみついた。 「何あれ何あれ何あれ何あれ!!!!!どうすんの!!!殺されるよ俺達!!!警察は!!!???」 「残念ながら僕は携帯も固定電話も料金未納止められてるんでね」 「あーもう死ねよ藤原君!!!てゆうか死ぬよ!!!!!」 俺は本気で命の危険を感じていた。まずあんなやつがいるのにどうやって外に出ろと言うのか。そして、残念ながら俺も携帯を家に忘れていた。 このままじゃ死ぬ。本当にそう思った。でも藤原君はさして気にする様子もなく、 「いつものことだから気にするなよ。朝にはいなくなってるから。」 と言うと、寒い寒いと呻きながらせんべい布団に入ってしまった。どこまでおかしいんだろうこの友人は。 相変わらずドアはベコベコ言ってる。男もドアの向こうにいるのだ。だけど藤原君は気にしないで寝てしまった。怖くて外にはもちろん出られない。 となれば、俺も寝るしかないではないか。俺は藤原君の布団に無理矢理入り込み、狭い、と言って蹴ってくる藤原君を無視して恐怖に震えながら、再び目を開けられることを願って眠った。 目が覚めて朝になると、音はもうせず、覗き穴の向こうにも誰もいなくなっていた。藤原君はボサボサの髪をぼりぼり掻きながら、 「な?ユーレイなんかより、ニンゲンのが怖いだろ?」 と笑った。俺は、ユーレイなんかより、ニンゲンなんかより、あの気が狂いそうな日常をまともに生きてる藤原君が怖かった。取りあえず、二度と泊まりには行かない。
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