バレンタイン

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藤原君はアコーディオンのようにチョコレートで遊びながら、 「あれ、2組の山崎だよ。昨日まで髪長かったからおかしいなあと思ってね。僕のバイト先のオカルトショップに呪いの方法聞きに来てたし。」 と抜かした。知ってたなら早く言えばいいものを、彼女に相手にされなかった八つ当たりとしか思えない。大体そんなとこでバイトすんな。 しかも藤原君はチョコレートを大事に箱にしまい直すと、「面白いものがあったよ」と紙袋から手紙のようなものを出した。 そこにはただひたすら 「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」 とあり、二枚目の便箋には「あなたの子どもを産みたい」とか 「恋はいつしか愛に変わった」とかポエムなんかも書かれていた。3枚目には意味不明な赤い手形。 怖い。気持ち悪いを超えて怖かった。正直こんなのドラマの中だけだと思ってた。しかし不意に振り向けば、走って帰ったはずの女の子が遠くからじっとこちらを見つめていた。 捨てたら殺される気がした。 「どうしよう、どうしよう藤原君」 「さあ?面白いじゃないか。僕もお得意さんをないがしろにはしたくないし」 頼ってみたがあっさり相手にされなかった。頭の中で藤原君に死ねと何度も呟いた。だが藤原君はまたニヤって笑うと、 「まあ、所詮は素人。返り討ちに合うだろうね。」 と言った。俺は意味がわからなかったが、藤原君はそれ以上何も言わなかった。俺ももう何も言う気力がせず、女の子の視線を背中に受けながら黙って帰った。 それから特に何事もなく数週間が過ぎたとき、例の山崎さんが転校していたのを知った。バレンタインデーのすぐあとだったらしい。 彼女が転校するからと最後にチョコレートをくれて、ちょっとやりすぎてしまったのか、呪いの返り討ちにあって転校するようなことになったのかはわからないが、藤原君の何時にも増してニヤ付いた顔から思うに、後者のような気がした。 とにかくいろんな意味で恐ろしいバレンタインだったが、ホワイトデーなのにお返しできる相手がいないこの事実がいちばん恐ろしい気もしている。
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