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そこで俺は、見てしまった。廊下に立つ男子生徒を。教室のドアのガラス窓を通してだから、肩までしか見えなかったが、首は極端にうなだれていて気持ち悪かった。
「あれって、まさか…隣りのクラスの奴とか、だよね。」
「授業中なのに廊下にあんなふうに立ってる生徒がいると思うかい」
「…先生に立たされてるとか」
「キミは死んだほうがいいね。」
藤原君はそう言うと、ため息をついて突然立ち上がった。
「先生、便所。」
先生の苦笑を背に受けながら、藤原君はドアを開けて廊下に出ていった。
そして、相変わらず立ち尽くしている男子生徒を、
通り抜けた。
男子生徒の身体は確かに見えるのに、その身体を藤原君が通り抜けたのだ。俺は喉が引きつって声も出なかった。
男子生徒をすり抜けたとき、藤原君はこちらを振り向き、「ホラね」とでも言うようにニヤリと笑った。その表情の気味悪さを、俺は一生忘れない。
藤原君が通り抜けたあとも、男子生徒は立ち尽くしていた。うなだれたまま、ずっと立っていた。あまり見ていると、そいつが顔をあげそうで、怖かった。
俺は藤原君が戻ってくるのを待ちながらひたすら机に消しゴムをかけた。無論、俺も藤原君を真似て消しゴムのカスを机の四隅に盛る為だ。
だが、消しゴムを掛けているうちに藤原君は戻ってきて平然と教科書の肖像画に鼻毛を書き始め、いつの間にか廊下の男子生徒も消えていた。
あの男子生徒の恐らく幽霊がどうなったかはわからないが、取りあえずそれ以来、何故か藤原君と俺は仲良くなってしまった。
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