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ここは平安より少し前の時代…
「礼殿!礼殿!!」
年は30代であろう男が屋敷全体に聞こえる位大きな声である人物の名前を呼び続けていた。
礼「聞こえてるよ。一体全体どうしたんだい?」
やや眠そうな表情をしながらその人物、藤原礼が奥の扉から顔を覗かせた。
「こんな所に居られましたか。妹様がお捜しですぞ。」
『妹』と聞くや否やバツの悪そうな顔をした。
礼「あ~…読書中だから後にしてくれって伝えといて。」
そう言い残すと自分の部屋へ戻るために襖を締めようとした。
…が、誰かの足によりそれは阻止された。
「お兄さま、みぃ~つけた!」
礼「げ、妹紅…」
妹紅と呼ばれた少女は真っ黒い髪に大きなリボンを付けていた。
妹紅「『げ』って失礼ね。」
セリフとは裏腹に非常に嬉しそうである。
「妹紅様は礼殿とお父上が大好きでございますからなぁ。」
この家には母親がいない。元々体が弱く、妹紅を生んで間も無く息を引き取ったらしい。それでも俺はこの家が大好きだ。
妹紅「ちょ…ちょっと何言ってんのよ!」
妹紅は、お手伝いの人をポカポカと叩き始めた。
慌てている妹紅を見て楽しむのも悪くないのだが今は読書に戻りたいのでさっさと用件を済ませてしまいたい。
礼「それでどうしたんだ?」
すると妹紅は急に真面目な顔になり、ゆっくりと口を開いた。
妹紅「実はね…母様が来るかもしれないの!」
礼「な…何だって!?」
恐らく妹紅の言う『母様』は父上の再婚相手の事だろう。
妹紅「それで父上が求婚しに行くから都まで一緒に来て欲しいんだって!」
父上と言うのは藤原不等比、ここいらじゃ結構有名な貴族だ。
礼「わかったよ、全く…いい加減都までの道覚えてくれよな…」
こうなったら暫くは家に帰れないだろう。
都での時間潰しのために読み途中の本を取りに一旦部屋へ戻った。
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